空冷Zのノーマルは1970年代の企画設計であるから、50年もの年月が経過した現代の水準にするとなると、 とにかく全ての部分に手を入れる事となる。大きく手を入れる訳だからトータルバランスは崩れやすく、そこを 如何に上手くまとめ上げるかがRCM製作の神髄である。このRCM‐519も、およそ手の入っていない部分は 無いのではと言った仕様であり、製作依頼を頂いたオーナーの力の入りようが感じられるマシンである。

名機 Z‐1も今では入手が厳しくなった車両だ。巷ではノーマル車両のヴィンテージ性に価値観が集まりつつあるが、 RCMにおいてその方向性はない。空冷Zを今でも現代のスポーツバイクとして見ており、走る・曲がる・止まるの スポーツバイクに求められる3原則を追求する事に価値を置いている。このRCM‐519のオーナーも同じ考えを 持っておられる方で、そこに共感が在った。ハイレスポンスなエンジンは力強い加速を生み、アベレージ速度が 上がったステージでのマシンコントロールを磨かれたシャシーが受け止める。もちろん乗り易さ・扱い易さも同居 させた仕上がりであるからツーリングや街乗りだって問題ない。要するにオートバイとして純粋にノーマルよりも 総合的進化を果たしたZになっている訳である。当然の事ながらそこに至る為には相当な作業が施されている。 製作における予算もさりとて、費やした時間は1年以上と長期に及んだ。それでもオーナーは叱るべしと真に 納得できるマシンを求めていたからプロセスに違和感はなかった。

むしろ進化して行く様を見る事が楽しい位で あったろうから、如何にもRCMオーナーらしい心理状態であったと推測する。マシンスペックについては正直 書き切れないボリュームだ。オリジナルフレーム補強はもちろん、足回りに対する要求は水準が高く、無名な メーカー製品を一切使用する事ないハイエンドなシャシーに拘った。エンジンにも情熱は注がれており、全ての 部位において予算度外視のメニューを踏んだんに採用している。半面、性能に直結していないビジュアル面も 軽視をしていない。各部にカーボン転写を施したりカラーチョイスをトータルコーディネートしたりと、個性化にも アイディアをくべている。

こうして完成したRCM‐519は、これまでも何台か僅かな台数だけ造られて来たベスト RCMにランクインする秀抜さだ。晴れて完成を迎えはしたが、近くオーナーは仕事の都合で長期主張に赴く事と なり暫くバイクに乗る事が出来ないと言う。出張を終えてから後に納車の運びとなったが、全情熱を注ぎ、1年 以上にも渡る長き製作期間を経て完成したこのRCM‐519は、正に"入魂"の1台であると言える。