6月末に行われた、Zレーサー3号機のシェイクダウン・・・
前々から決まっていた事だが タイミング悪くイタリア・ドイツへの
出張が重なってシェイクダウンには立ち会えなかったものの 状況の
報告は入って来ており、ミラノにて 居ても立ってもいられない心境
だったのを憶えている・・・
![]()
バージョン1として完成を果たした、Zレーサー3号機・・・
辿り着いた先に待っていたのは、わずか数周で 走行中断と言う
無念の結果であった・・・
![]()
全てがオリジナルジオメトリで 存在しないディメンションだから
むしろシャシーのセットアップに時間が必要だと言うのに、この日
シリンダーヘッドからの圧縮漏れで まともに走行が出来なかったの
だから、何とも情けない結末・・・
![]()
プラグにくっついたまま、抜けてしまったアルミのスリーブ。
原因は、中2気筒のプラグ穴に施されていたヘリサート不良を
直すべく、オーバーサイズで製作し 挿入したアルミスリーブが
溶けて 周囲から圧縮が漏れた事だった。
始めから じわじわ抜けつつあった圧縮が シャシーダイナモ上で
症状が少しずつ進行し、コースインと同時に一気に悪化・・・
もはや成す術なしの状況に 終わる。
![]()
7月に入り、問題であるシリンダーヘッド修復に取り組んだ。
プラグ穴に挿入したオーバーサイズのアルミスリーブを、上下から
溶接して 気密性を保とうと試みるが・・・
![]()
前回の走行で スリーブの周囲にカーボンが不着していたのか
溶接部が黒ずんで沸いてしまい、思う様に上手く溶かせず・・・
溶接は美しい程 しっかり溶け込んでいる特性がある為、どうにも
きれいに溶け込んでいない状態に一抹の不安を感じたが、それでも
5割近くは繋がったと判断できた為、このままネジ切り加工へと
踏み切る。
この後 新しいシートリングを圧入して、バルブを擦り合わせし直し
燃焼室形状を復元させれば完成だ。
![]()
燃焼室を元々の多球形状へと戻すべく、隣の燃焼室形状を見ながら
刃物とフラップホイールを用いて 丹念にそっくりな形へと削った。
見た目は似ていても 実際の容積にバラツキは出ているだろうから
それを揃えるべく、全ての気筒容積を測定しようとしたが・・・
![]()
中2気筒の燃焼室測定に 差し掛かったところ、なぜか測定液が
なかなか溜まらない・・・
注入シリンダーに詰まり物でもしたかな・・・ と思ったが、直後
一瞬 まさか! と 青ざめる。
おもむろにヘッドを上げて見ると・・・
![]()
やっぱり!
原因は修正したプラグホールからの 液漏れ・・・
それもポチョポチョと早い速度で落ちる、尋常ではない漏れ方だ。
巣穴かっ?
![]()
目に見えないとは言え、いずれにせよ 只そのまま満たしただけの
一気圧で ここまでダラダラ漏れでは、圧縮など掛けようものなら
ひとたまりも無いだろう・・・
ダメだ・・・ 全然 直ってない・・・
全く予想していなかった事態に 気持ちが揺れまくる。
![]()
今までこういった類の修理を 沢山こなして来たじゃないか・・・
いつだって 何だかんだ言っても、上手く直せて来れたのに。
溶接で盛って目で見て削り、さも 最初からそうであったとばかり
人より器用に加工が得意だし、重要となる絵心だって自信があって
自分の目と手と 感性を、誰よりも信じて来た・・・
金属を相手に まるで彫刻をしているかの如く上手く修正を施して
自らが己惚れる程の出来ばえで こなして来たのだが
今回はなぜか・・・ 直せない・・・
![]()
思い切って患部をすり鉢状に大きくえぐり、奥深くまでトーチを
入れて溶かし込んでやれば 直るかも知れない・・・ と、そんな
思いが一瞬 頭をよぎったが。
そこまでやれば 熱の影響で、ガイドもシートリングもやり直しに
なるのは確実。
今は このヘッドに執着してはいけない・・・
まずは健全な状態で走らせる事が大事であって、修理は二の次だ。
![]()
不本意だが、もう一つ用意していたスペアのシリンダーヘッドを
フルノーマルだが 使うしかない・・・
![]()
バルブもポートも 完全にスタンダードなノーマルヘッドだが
今から加工していては 来週の走行には絶対間に合わないから
そのまま素組みして とにかく走らせる!
![]()
完成したばかりのレーサーと言うのは、とにかく ゼロスタート。
ましてや3号機は、A16のオリジナルフレームシャシーであり
前後サス・車高・最終減速比・ブレーキフィールやポジションまで
とにかく ありとあらゆる車体セットアップ課題が山積している。
![]()
6月のシェイクダウンが とてもそれ所ではない終わり方だった
だけに、今度の走行を落とす訳には 絶対行かなかった・・・
贅沢は言えない。
エンジンパワーは先延ばしにして、まずは全開走行が出来る事。
もはや優先順位はそこにある。
![]()
カムも今までと同じ ロースペックなものを使用しているが
とにかく4気筒、気持ちよく燃焼してくれれば いい・・・
そしてその間、11月の本番までにヘッドの修理を成功させるか
あるいは 新しいシリンダーヘッドを造り上げるか・・・
いずれにしても 今は車体のセットをスタートさせる事である。
![]()
急遽、フルノーマルのシリンダーヘッドで完成させたエンジン。
ZX10Rのフューエルインジェクション スロットルボディは
当然の事ながら 取り付けできない・・・
A16に使用している Z1000の純正スロットルボディを
アダプターを介して取り付ける仕様だ。
そして2日後・・・
![]()
エンジンが搭載され、無事 火が入る・・・
![]()
ツインプラグではない シングルプラグで、バルブやポートの径も
フルノーマルのヘッドだから、もう一度マップ調整が必要であり
次の走行日まで もうあまり日がない。
前途は多難・・・
が しかし、これで初めて3号機は 全開走行ができる事だろう。
今までのレースだって 最初から上手く運んだ事なんて無かった。
いつだって 一歩ずつ・・・
失敗して 挫折して、その繰り返しの中 一歩ずつ歩んで来たんだ。
今度の走行には これで臨む・・・
まずは一歩、踏み出さねば。
